英語圏の総合科学誌「ネイチャー」の福島原発事故Q&Aの日本語訳(Part 3)
今日、米国東海岸時間で11時頃から、英米で主に編集されてる(出版は英国)総合科学誌の「ネイチャー」が、オンラインで福島原発事故に関するQ&Aを行いました。「ネイチャー」誌は、事故発生当時から、ブログやオンラインの紙面で、事故そのものや、それに関する現地測定のデータ、さまざまな国のさまざまな機関によるモデル試算の結果、日本や国際の関連機関のプレスリリースなどを、地道に報道してきました。それらは、こちらにまとめられています。⇒ http://www.nature.com/news/specials/japanquake/index.html
「ネイチャー」誌は、事故当初から、「総合科学誌」としての立場から、客観的に、刻々とレポートされてくる数値と過去の例(チェルノブイリなど)に基づく報道や社説を出してきています。記事は、科学に基づいてはいますが、科学者のためだけではなく、一般の人のために書かれています。このQ&Aは、「ネイチャー」側が読者の質問に答えているわけですが、質問はモデレーターにチェックされてからチャットに出てくるようになっていたので、筋の通った、読みやすいQ&Aになっています。原文のチャットは、ここです。⇒ http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/japans_nuclear_disaster_live_q.html?WT.mc_id=TWT_NatureNews
Q&Aの訳(Part 3)
Krisからのコメント: 一号機の燃料棒は、70%ほども露出している、と報道されてます。あと、現場では、水素が充満するのを防ぐために窒素を注入してるそうです。ってことは、一号機の冷却はうまくいってない、ということです。もしかしたら、海水からの塩分の沈殿物が、水の循環系をブロックしてるのかもしれません。皆さん、このことを踏まえて、「最悪の事態」はどんなものであると考えてますか?
GB: これについては、私ども、数日前に書いた記事でも触れました(http://www.nature.com/news/2011/110405/full/news.2011.211.html)。基本的には、もし冷却系統がだめになってたとしたら、燃料棒がいくらか、またはすべて溶解して流れ出して、下のコンクリートのおわん状になっているところにたまっている、という可能性はあるわけです。もしこのケースが本当なら、汚染の浄化は、かなり長くかかりますし、コストもかなり高くつきます。
あと、もうひとつ、一過性ではありますが、エネルギーの高く出る核分裂がまだ続いている、という可能性は否定できません。それに、炉心が、また本来の核分裂を始めてしまう、という可能性も、まったくないわけではありません。こうなると、放射能の拡散という面からも、事故の処理、という面からも、大きな問題です。でも、いまわかる範囲では、そのようなことが起こっている確率はほとんど無いです。さっきも申しましたように、状況は、今のところは安定しているようです。
GB: あ、もうちょっと正確に申し上げたほうが良いですね。実際に炉心で何が起こっているのかは、現在は完全にはわかっていません。でも、いまのところは、「状態は安定しているように見受けられる」ということです。
JS: ここは、Geoffに任せます。
Yuriからのコメント: 福島とチェルノブイリを比較して、似てるところ、違うところ、などの解説をお願いしあす。特に、放射性物質の土壌や海への拡散について。
BO: Jim、あなたはチェルノブイリについての本書きましたよね。
JS: チェルノブイリは、海にはほとんど影響を及ぼしませんでした。チェルノブイリからは遠いバルト海と黒海に放射能が観測されましたが、ほんの少しでした。福島では、海への影響は大きな問題です。陸での拡散と沈着は、チェルノブイリと福島、類似点があります。ヨウ素とセシウムが問題なのは共通してます。ただ、チェルノブイリの場合は、最初の爆発で、燃料棒そのものの破片が、だいたい10キロ以内の地域に飛び散りました。だから、チェルノブイリ近辺では、プルトニウムやストロンチウムなど、セシウムやヨウ素と比べるとかなり揮発性の低い放射性元素での汚染が起こりました。
Brendanからのコメント: 今、残った燃料棒を、福島原発から、どこかもっと安定した長期的に保管できる施設に移動するという計画はあるんでしょうか?というか、そんな施設なんてあるんでしょうか?それとも、燃料棒は、今の場所でずっと保管されるんでしょうか?
GB: なかなかいい質問ですね。私は燃料棒を移動させるという話は聞いてません。でも、今現在、燃料は、地震や津波の危険にさらされているわけですから、どこかに移動させるというのは、考えに入れておくべき選択肢だと思います。でも現実的に考えて、燃料の移動が出来るようになるのは、何年も先の話です。まずは燃料が完全に冷却されないとできないので。
Adam Fからのコメント: チェルノブイリでは、炉心をコンクリート詰めにしましたよね。コンクリート詰めの良い点と、あと問題は、何ですか?福島で応用できますか?
GB: 私、ついこの前だれかとこの話しました。原発サイズの、巨大なコンクリート詰めのかたまりの問題点は、それが、その場所で、数十年、もしくは一世紀ほども管理されなければならない、ということです。福島あたりの、地震やその他のリスクのことを考えると、コンクリート詰めにするのは、問題が多すぎるんじゃないかと思います。Jim、どう思います?
JS: 私も同感です。あと、いったんコンクリート詰めを始めると、完全に廃炉にするのが難しくなりますね。
Howardからのコメント: 「Neutron beam」が観測されて、それが、燃料棒で核分裂が起こってることの証拠ではないかと報道されてますよね。中性子が放出されると、最悪の事態では、どんなことになりますか?最悪を回避するには?
GB: ああ、ミステリアスな「Neutron beam」の質問が出てきましたねえ。これは、絶対に翻訳ミスの問題だと思います。日本の当事者は、「Neutron burst」のことを言っているんだと思いますよ。あと、私が話した大多数の物理屋さんは、Neutron beamの可能性は否定してます。理由は以下の3つです。(1)中性子の観測は、とても難しい、(2)レポートされた値はかなり低くて、現在かなり高いガンマ線からのノイズともとれる、(3)ここでNeutron beamが出ている、というのは、ぜんぜんつじつまが合わないんです。観測点は、建物からかなり離れてました。そもそも、中性子が炉心を保護してる入れ物から遠くまで放出されてくる、ということは、考えられません。
とは言っても、燃料棒そのものですでに起こった核分裂からの中性子はあります。そういう意味では、燃料棒そのものはまだ危険です。
JS: もし今現在でも核分裂が起こってるとしたら、モニターされてる大気と水に、半減期のとても短い核分裂で生成される同位体が出てくるはずです。私はそういうものが観測された、というレポートは聞いてません。
(訳者ETA: 下のコメント欄でKoichi Moriさんから指摘のあったとおり、この”Neutron beam”のもともとの話は、4月1日にNature Blog(リンクこちら)でもレポートされています。)
Aya Diabからのコメント: Jim、この事故によって、「新しい核の時代」の方向は、どう変わっていくと思いますか?
JS: いい質問ですね。私としては、まだ、このことを考えるのは、ちょっと早いと思います。はっきり言って、まだ事故の収束のめどが立っていないうちに政治家たちがこの話をし始めたのには、びっくりしてます。でも、私の「現時点で」の考えを言わせていただきますね。私は、環境科学者ですが、20年もチェルノブイリの研究をしてきて、そしてこの福島の事故を経験した今でも、原発賛成派です。私は、すくなくともあと数十年は、原発と、その他の再生可能なエネルギー源を組み合わせることで、二酸化炭素の生成をなるべく抑えて電力を供給しているべきだと思いますし、それが、核原料(ウランとプルトニウム)が平和のみに利用されることにつながるとも思います。
(Part 4)
貴重な情報、ありがとうございます。
「要素とセシウムが問題なのは共通してます。」の「要素」は、「ヨウ素」が正しいでしょうか。
あ、そうです。ご指摘、ありがとうございます。直しておきます。
I do not know where this comment is going, but the statement that there is no report of nuclear chain reaction is not true. Nature itself report that:
http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2011/04/fukushima_update_did_nuclear_c.html
if it is not an April Fool’s joke, titled “Fukushima update: did nuclear chain reactions continue after shut-down? – April 01, 2011”.
The answer part is full of questionable statements. Please translate the comments after the Q&A live session, especially about the internal exposure and low dosage effect on the fetus.
Thanks. My understanding was that TEPCO revised some of the data since this Nature post you linked came out and backtracked the suggestion of neutron-related particles. But I will ETA the link. As for the comments, I’ll look through them this evening and will ETA some footnotes as necessary.
原文もどういうつながりかわかりにくいですが、security of supplyは、平和利用ではなく、
安定供給だと思います。原料が安定的に供給できるから原発だというロジックかもしれませんね。
あ、そうかもしれません。実はここのところ、ライブのQ&A中にちょっとわからなくって、あとからアーカイブを読み直しても、やっぱりちょっと変だなあ、と思ってた箇所なんです。
記事の内容とは本質的に関係ありませんが、リンクのアンカーテキストが「ここ」とか「こちら」になっているのが個人的に気になります。何故リンク先文書のタイトルにしないのですか?
いわゆる「こちらリンク」はユーザビリティ上の問題があるだけでなく、一生懸命作成したコンテンツが「こちら」呼ばわりされたら、私なら残念な気持ちになります。
あ、そうですか。了解しました。今晩直します。どうもありがとうございました。
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